タテハ通信

好きな物があればあるほど人生は楽しい。そんな私の日常を綴っています。

ミネルヴァの梟

ミネルヴァの梟は迫り来る黄昏に飛び立つ』
これは、ヘーゲルの『法の哲学』の序文にある文章だ。ミネルヴァは、『知識』『医学』『工芸』など多くの仕事を司る女神。

梟は彼女が愛する聖なる動物で、肩や手に乗せている像が多い。

賢い鳥と言われている為、知の女神ミネルヴァにはふさわしい動物なのだろう。

 

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法の哲学〈1〉 (中公クラシックス)

法の哲学〈1〉 (中公クラシックス)

  • 作者:ヘーゲル
  • 発売日: 2001/11/01
  • メディア: 新書
 

 

 

ヘーゲル自身の解説によると、『黄昏』とは破滅寸前の政治の荒廃や、世の中の混迷。

哲学はその危機を察知して警鐘を鳴らす事をせず、いつも遅きに失するのだ、という自嘲的な比喩らしい。

哲学は荒廃した世の中を救えないという、ヘーゲルのジレンマを感じる。

 

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(孫がお気に入りの池袋アウルパークの梟たち。現在は時短営業中)

 

だが、私にはこの解釈に納得出来ず、ずっとモヤモヤが残っていた。

梟は飛び回り、破滅寸前の世界を見て回り、ご主人のミネルヴァに報告するのだが、ミネルヴァはそれを聞いても滅びゆく世界を救おうとはしない。

それは冷たいんじゃない?女神なら、もっと早く危機を察して、対処する事だって出来るでしょうに。

 

そのモヤモヤを解消してくれたのは、富士フィルム社長の言葉だった。

 

『文明や時代が終わる時、ミネルヴァは梟を飛ばし、情報収集をする。そしてその過去から学び、次の変化に備える』

 

カメラとフィルムだけ作っていれば順風満帆の時代から、次世代の幅広い分野の製品を製造して、衰退を免れた会社の社長らしい訓示だ。

 

なるほどなぁ。ストンと腑に落ちる。

富士フィルムが、本業とは無関係に思える美容や健康に関する製品を発売した時には驚いたが、それもやがて違和感なく受け入れられた。

カメラやフィルム製造以外に新しい方策を探らなかった(と思われる)ポラロイドやコダックは、倒産の憂き目に遭った。

 

新型コロナウイルスの治療薬として使用されている《アビガン》は、まさにその富士フィルムの傘下にある《富士フィルム富山化学》の製品だ。

梟に偵察させて、次の災いに備える事の大切さが、今まさに証明されたと言えるのではないだろうか。

 

さて、世界を混乱に陥れたコロナ禍の今、ミネルヴァの梟はもう飛び回っているに違いない。

私達は、この混迷から学んだ教訓をどう次の変化に生かせるのだろう。