タテハ通信

好きな物があればあるほど人生は楽しい。そんな私の日常を綴っています。

《ライジング若冲》の余韻

若冲愛が強すぎて、すぐにはこのドラマの感想が書けなかった。

1月2日のNHK『ライジン若冲』の話である。

 

14年前、当時話題をさらった《若冲展》に行った事がある。

はじめは、人気のある絵を見ておこう、といったミーハー的な気持ちだった。

会場の京都市相国寺承天閣美術館》に入るまで、1時間45分の順番待ち。入場直前は疲れていたのだが、美術館に足を踏み入れた途端、心が躍り、夢心地で退館するまで、いや家に帰ってからも、興奮が冷めなかった。

f:id:kisaragikyo:20210109083949j:image

若冲の絵にはそれ程凄みがあった。

美術館には順路が無く、自由に鑑賞出来たので、私はあちらこちらへ移動しながら、ガラスに張り付くようにして見詰めていた。

鶏の鳴き声、飛び立つ野鳥の羽音、跳ね上がる小枝からザクリと落ちる雪…。絵なのに触感があり、音が聞こえたのだ。それを見逃すまい聞き逃すまいと、私は必死だった。

 

ライジン若冲》は、あの時の驚きと感動が、生々しくよみがえるドラマだった。

若冲 (文春文庫)

若冲 (文春文庫)

 

何しろ、中村七之助若冲が色っぽい。永山瑛太演じる、相国寺の僧侶顕常と見つめ合う姿は、友情と呼ぶには相応しくない程の、深い愛情の存在を匂わせている。二人の台詞の一つ一つに重みがあり、心に残る。そして、美し過ぎて溜息が出る。

その時、私がずっと持ち続けていた「若冲は、何故相国寺に居続け、何故『釈迦三尊像』『動植綵絵』の三十三幅を、惜しげもなく寺に寄進したのか」という疑問が、たちまち氷解した。

ただ宿泊していた寺への恩義からというだけではなく、顕常との間には、信頼と尊敬と、何物にも変え難い深い魂の結び付きがあったのだと…。

勿論、事実を踏まえた上で、想像力を駆使した脚色があるのだろうけれど、その表現は私にとって十分に納得のいくものだった。

そしてもう一つの見所は、三人の絵師の絵にかける情熱である。

伊藤若冲池大雅円山応挙、という個性溢れる三大絵師が物語の中で生き生きと描かれ、それぞれに自分の世界を開花させる様が、何とも小気味良い。

本当に三人の交流があったのかは、定かでは無い。しかし、京の地で同じ絵師として同時代を生きたなら、ライバルとして意識し、刺激を受けながら、お互いに自分を磨き成長していったというのは、想像に難くない。

そして、三人をフワリと包み込む、ユーモア溢れる売茶翁の存在も欠かせない。何と飄々と、何としなやかに、彼らの成長を見守り後押ししていた事か。私は架空の人物だと思っていたが、実在していた。ドラマのように、教養深く自由な精神の持ち主だったらしい。

池大雅の妻も素直に伸びやかで良い。

この人の事は池波正太郎著『おとこの秘図』の中で、やはり「貧しさを苦にせず、池大雅と共に扇子に絵を描いて売りながら、楽しげに暮らす妻」として書かれている。ユーモラスで少しエロティックな小説。3巻はあっという間に読める。

おとこの秘図 全3巻セット

おとこの秘図 全3巻セット

  • 発売日: 1983/09/25
  • メディア:
 

ドラマ中、相国寺の一堂に掛けられた三十三幅の絵は圧巻。蝋燭に照らし出されて徐々に浮かび上がる演出に、気持ちが高まってゆく。レプリカなのに、本物さながらの繊細さ、大胆さに圧倒された。

 

若冲の絵のように、隅々まで力の込められた、心に残る素晴らしいドラマだった。

私はまだその余韻に浸り、酔いしれている。