タテハ通信

好きな物があればあるほど人生は楽しい。そんな私の日常を綴っています。

地下道に響く下駄の音

人が行き交う駅には必ず物語が存在し、時には驚く様な出来事を目撃する事がある。ある日私が目にした、忘れられない光景もその一つだ。

 

私はよく京都市営地下鉄北大路駅を利用している。その日も電車に乗る為に、地下の乗車券売り場から改札口へ向かって歩いていた。

その途中にあるキヨスクの横で、二十歳前後の女性が、人待ち顔で立っているのが目についた。

上にあるバスターミナルからやって来る誰かと待ち合わせて、地下鉄で四条へでも買い物に行くのかな…?お洒落な服装を見てそんな気がした。さりげなく流行を取り入れたワンビースは、その子によく似合っていた。

デートかしら、と思った私の予想は外れて、やって来たのは同年代の女性だった。

ところが、その相手を見るや否や、彼女の顔からスッと笑顔が消えた。そして、ひきつったような表情でクルリときびすを返すと、友達を残したまま人混みの中を足早に立ち去って行った。

その様子に、はじめは不思議な気がしたが、理由はすぐに分かった。

やって来た友達は、普通の洋服を着ているのに、足には下駄を履いていたのだ。男物の黒い鼻緒の大きな下駄で、まるでじゃりん子チエ。

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「えっ、なんで?」あまりに奇妙な姿に、私は唖然とした。

彼女はそれがファッションのつもりなのだろうか。恥ずかしがるどころか、むしろ誇らしげにしている。

 

じゃりん子チエは、私の不遇時代に励ましてくれた、今でも大好きな漫画。彼女がもしチエをモデルにしているのなら、とんだ勘違いだ。

「待ってよ○○ちゃ〜ん。どうして行っちゃうのよ〜」

彼女はそう叫びながら、去って行く背中を追いかけ、重たげな下駄の音がカラコロと虚しく地下道に響いていた。

下駄の彼女も可哀想だとは思うが、私はお洒落な女性の方に同情した。思い描いていた楽しい休日が、一瞬にして消えてしまったのだから。

たとえ我慢して二人で遊びに行ったとしても、ずっと恥ずかしい思いをするに違いない。

駅はショッピングモールに隣接しているので、そこで靴を買って履き替えさせるという手もあるが、相手に説得を受け入れる余地がある場合に限られる。けれども、下駄の彼女は、自分が置き去りにされる理由が全く分かっていない様子だった。

そんな無神経な人を説得するのは、無駄かも知れない。それに、靴売り場に連れて行くのすら恥ずかしい。

この場合は先人の言葉通り、逃げるが勝ち。

 

周りに嫌われるような、場違いな服装はしないように心掛けようと、この時から肝に命じている。