タテハ通信

好きな物があればあるほど人生は楽しい。そんな私の日常を綴っています。

大学受験のとんだ事件

受験シーズンになると、ある話を思い出す。

まだ大学入試センター試験や、その前身の共通一次試験が導入されていない時代。足切りなどはなく、受験生はどの大学でも自由に受験出来た。

自分の成績と照らし合わせて受験するのが常だが、到底実力の及ばない大学を受験する、『記念受験』なんていう言葉もあった、まだ長閑な時代の話。


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私が通っていた大学に、社会学の講師としてみえていた、国立K大学の先生が『入試の時に、こんな事があったんですよ…』と信じがたい話を授業中に話された。

 

その先生はK大の入試の日に、試験監督をしていた。

ところが、試験が始まって教室を見回すと、真剣に問題に取り組む大勢の受験生の中に、明らかに違和感のある人物が居た。

そっと近寄ってみると、受験票とは全くの別人。受験生は女子高生なのに、目の前の人間は、どう見ても女装したオジサン。怪しいどころではない。

しかし、あまりに突飛過ぎて確信が持てず、同じ教室に居た他の先生方にこっそり耳打ちした。そしてその先生方も、見回る振りをして近寄ってみた。

『あれは替え玉だね』と、意見が一致。

 

普通ならその場で取り押さえ、厳重注意または然るべき場所に突き出すところだが、そうはしなかった。しっかり監視しながら、そのまま試験を受けさせたという。

どうやら、替え玉は受験生の父親らしい。K大に入るには力不足の娘の為に、女装してまで受験に臨む姿に憐れみを感じ、かわいそうだから、そっとしてあげようという温情だった。

それは、別の教室に居た先生方とも協議した結果だった。

勿論、騒ぎ立てれば他の受験生を動揺させる事も考慮した上での決断だったのだろう。

 

その代わり、他の教室の監督の多くが、珍しがってこの滑稽で憐れな替え玉を見物に来たらしい。

好奇の視線に晒す事は、彼に対する罰?

いや、そればかりではない。

この話をしてくれた講師は、はっきり『かわいそうで、そっとしておいた』と仰っていたから。

替え玉は、何も知らないまま試験を終えて、当然不合格になった。

 

この一件がマスコミに取り上げられなかったのは、受験生の将来と父親の社会的地位をおもんばかって、どこにも訴えたりはしなかったからではなかろうか。

娘の名前は、ブラックリストに載っているだろうが…。


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成績はどうだったのかは聞かなかった。不正が発覚した時点で全科目0点になる学校もあるから、採点はされなかった可能性もある。

でも、その父親にどれ程の実力があったのか、知りたい気がする。K大の先生方もそうだったのではないかと、推測する。

 

もしも私がその受験生なら、父親が替え玉受験をする事を知ったら、命がけで止める。自分の生きる道は自分で決めると、はっきり断言する。何故娘にはそれが出来なかったのだろう。万一不正がバレずに合格したとしても、一生罪悪感を背負って生きなければいけないのに…。

 

聞いた時はただの笑い話だったが、この一件から得た教訓もある。

親の本当の愛情とは…。

子供が堂々と胸を張り、自分の道を歩めるように導く事、失敗しても立ち上がる強さを身に付けさせる事、ではないかと。