タテハ通信

好きな物があればあるほど人生は楽しい。そんな私の日常を綴っています。

『頑張って!』の代わりに

私が子供の頃には、誰かを励ますときに「頑張って!」と言うのが普通だった。

言われたら何の違和感も感じず「はい、頑張ります」と返した。

でも、いつからか「頑張って!」は、相手に失礼だと言われようになった。

闘病中の人や、悲しい出来事から立ち直ろうとしている人は、もう十分頑張っているのだから、それ以上の努力を求めるのは、却ってその人に負担をかけるのだという。

じゃあ、何て言えばいいのだろう。

「大変ですね」「元気を出してね」

何だかよそよそしい感じだが、そんな言葉しか浮かばない。もっと相手の心に響くような、暖かい言葉は無いのだろうか。

 

東京で暮らす妹が10年前に乳癌の手術をした。年末、丁度今くらいの季節だった。手術の付き添いを引き受けて、それまでの3ヶ月は、電話とメールで連絡を取っていた。初期のうちに癌が発見されたので、命の危険はないが、手術となれば心配だ。

「頑張ってね」は言わないようにしたけれど、頻繁に連絡しているうちに、だんだん言葉が無くなってきた。

妹は気持ちがナーバスになり、私の言葉を攻撃して来るようになったからだ。日に日にそれはひどくなった。

その上、担当医が事故に遭って入院したと言う。急に手術日と担当医が変わり、それも不安に拍車をかけた。

「お姉さんは、全然私の辛さを分かっていないから、そんな事が言えるのよ!」

どんな慰めの言葉も、そんな彼女には通じない。けれど、手術を待って不安な妹に、私は何も言い返せず、ただ「ごめんね」を繰り返すばかり。

妹の言葉が突き刺さり、私の心もしぼんでいく。ノートに自分の心情を綴りなから、涙がこぼれた。

近くに居たら抱き締めてあげるのに。子供の頃のように、背中をとんとんしてあげるのに。

何も出来ないうちに、どんどん手術の日が近づいて来た。彼女はどんなに不安な気持ちでその日を待っていることだろう…。

そんな頃、散歩の途中の公園で、変わった実をつける木を見つけた。いっぱいについた実がはぜて、赤い種が顔をしている。

触るとねばねばする種に、生命力の強さを感じ、写真に撮った。

何という木なのか知らなかった。帰ってから調べると、『とべら』という名前。
f:id:kisaragikyo:20191212151614j:image
魔除けとして扉に飾る事があると知る。

トビラ→トベラとなったらしい。これだ!と閃いて、その画像を妹に送信した。

その日の返信には「ありがとう。元気が出ました」とあり、ほっとした。

どんな言葉よりも、たった一枚の木の写真が、元気をくれる事もあるのだと知った日だった。