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タテハ通信

好きな物があればあるほど人生は楽しい。そんな私の日常を綴っています。

鬼平犯科帳に見る真の優しさ

池波正太郎の名作『鬼平犯科帳』。

読み出したらその素晴らしさに魅了され、文庫本のシリーズを一気に読んだ時期があります。 

鬼平犯科帳(一): 1

鬼平犯科帳(一): 1

 

 中村吉右衛門さんが嵌り役の、時代劇の方も大好きです。一昨日のスペシャル、勿論観ました。あの寛容さ、そして鋭さ。多くの方が演じていますが、原作に一番近いのは吉右衛門さんだと思います。

脚本がしっかりしているのは勿論の事、映像も凝っていて、色彩がしっとりと上品。特に光と闇の使い方は見事で、照明さんの職人技に感嘆させられます。衣装も他の時代劇とは一線を画し、上質な物が使われているように思います。

        
             鬼平犯科帳エンディング - YouTube

 

鬼平犯科帳 第1シリーズ DVD-BOX

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 長谷川平蔵は、火付盗賊改方長官として活躍した実在の人物です。しかしその他にも、罪人の更生施設である石川島人足寄場を作ったという実績もあります。 

小説は、勿論、その殆どがフィクションですから、主人公の人格をそのまま実在した本人に当てはめることは出来ませんが、 これは小説や劇中の『根っからの悪人は居ない。貧困や愛情のない環境が悪人を作り出すのだ』という、鬼平の信条に通じています。実際、仕事を得ることによって、再び悪事に手を染めずに済んだ人も多かったのではないでしょうか。単に盗賊を捕縛するだけでは悪事の数は減らない。その数歩先の事を考える。この辺が鬼平さんの偉大な所だと思います。

それを考えると、税金の無駄使い、悪の温床のように言われる公共事業も、ある程度は必要なのでは無いかと思ったりします。

 

実は、小説では鬼平自身が複雑な環境で育ち、継母から壮絶な虐めを受けて家を飛び出し、道を踏み外したという経験を持っています。『根っからの悪人は居ない・・・』というのは、その経験から発した言葉なのです。

 

もう一つ、小説や劇中で印象に残る好きな言葉があります。

              『それもまた良し』

例えば、密偵が盗賊一味の尾行をしていて気付かれそうになり、やむなく尾行を中止した時、その報告を受けて鬼平さんはこう言います。

『うむ、それもまた良し。気付かれて、警戒されたり逆襲されたら元も子もない。お前のその判断は正しかったのだ』

鬼平さんに叱られるかと身を竦めている密偵は、その言葉にほっと表情を和らげます。

それは失敗ではなく良い判断をしたのだ、と相手を肯定しているのです。『それもまた良し』とは、何と寛大な、思いやりのある言葉でしょうか。

この言葉、人と人との関係において、今の社会でも十分通用します。

上司が部下に、親が子に、その失敗を叱責せずに『それもまた良し』と言ってあげられたら、その言葉が潤滑油になってもっと人間関係がスムーズに行くのではないでしょうか。失敗した時点で、すでに相手は十分に傷つき自分を責めていている訳ですから、それ以上に傷つけるのは、良い方向へ向かうとは思えません。それが努力した結果の失敗なら、小言はほどほどにしてその後の良案を一緒に考える方が得策です。

時には捕縛した強盗に対してさえも深い情を注ぎ、寛大な処置を執る鬼平の懐の深さには学ぶところが沢山あるのではないでしょうか。

 

実は最初に全巻読んだように書きましたが、一巻だけ未読のものがあります。それは最終巻。もうこれで終わりかと思うと、どうしても読む事が出来ないのです。