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タテハ通信

好きな物があればあるほど人生は楽しい。そんな私の日常を綴っています。

『私の男』と私

 多分無理だろうなーと思っていたが、『私の男』が映画化される。これは画期的な出来事である。

私の男

私の男

 

この作品が直木賞を受賞した時、審査委員の男性作家には高評価を受けたのに、「下品で気持ち悪い」といった言葉で、林真理子氏に酷評された。 

そうかしら、と私は反発したのを覚えている。

この中に描かれる人間の業と悲しみを、そんな言葉で表現され得る筈はない。本当に林氏はこの本を読んだのだろうか、と疑問にすら思った。

それまでの桜庭作品に、性描写は殆ど無い。あってもあっさりしたものだったので、この作家はそういう表現が苦手で、避けているのではないかと感じた。

しかしこの作品においては、まるで吹っ切れたようにガラリと変わるのである。

濃密な、しかし程よい爽快さも持ち合わせる描写は、上質な文学そのものだと思った。

物語の内容は大胆で突拍子もなくユーモアに溢れ、そのくせ恐ろしく繊細な面を併せ持っていて、とにかく面白い。読み手を物語の中に引き込んでいく力量のある人だと思った。

 

初めて読んだ桜庭作品は『赤朽葉家の伝説』だったが、終章に近づくにつれ、「もっと読んでいたい。読み終えたくない」という気持ちを抑えることができなかった。 

赤朽葉家の伝説

赤朽葉家の伝説

 

最後には感涙、そして読了すると、大きな寂寥感に襲われた。

そんな経験は初めてだった。

 

話を元に戻すと、『私の男』に関して、マスコミでは禁断の愛ばかりが強調され、テーマがぼやけてしまいがちだ。

作者は作品を通して『家族』とは何なのかを強く問うている。主人公の花は、一見平穏な自分の家族に違和感を禁じえず、それを失っても悲しみに陥ることはなかった。そして彼女の養父となる青年もまた、愛情の希薄さを感じながら育ってきた。

空虚な心を抱えた二人は、ようやく本当の家族に出会ったように惹かれ合い、それ故に大きな罪を背負ってしまう。

読んだ当初、もし映画化するとしたら、花の養父淳悟には誰が相応しいかと考えたことがある。

図太くて、けれど繊細で、危うい美しさがある、魅力的な人物を演じられる俳優…。

その時は思いつかなかったが、浅野忠信さんと知った今は彼以外には考えられない。

 

映画『幻の光』の青年役が印象に残っている。

幻の光 [DVD]

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江角マキコ演じる主人公の女性に、強烈な影響を残したまま自殺する青年役、浅野忠信の 存在感を感じた作品である。