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タテハ通信

好きな物があればあるほど人生は楽しい。そんな私の日常を綴っています。

大人のメルヘン『モンスター』

モンスター (幻冬舎文庫)

モンスター (幻冬舎文庫)

私も含めてだが、自分の容姿にコンプレックスを抱いている人は多い。しかし、どこかで諦めたり、これも個性と割り切って共存している。ただ、それが許容範囲をはるかに超えるものであったらどうだろう。

「ばけもん」と呼ばれるほどに醜い女性が、整形手術によって美しい要望を手に入れ、かつて自分を蔑んだ相手に復讐していく話…そう一言で表現すると、この物語は俗っぽく陳腐なものになってしまうかもしれない。しかし、そうではない。読み進むうちに、これは単純な復讐譚ではなく、もっと女性の奥深い心理に踏み込んだものであることが分かって来る。

主人公和子の表現を借りれば、整形は「自分自身の過去への復讐」である。そして、「年老いて孤独と後悔の中に朽ち果てて長らえるよりも、一瞬であっても華々しく燃えるような人生を送りたい」とも彼女は言う。

このあたりに差し掛かった時、ふと、「ビューティーコロシアム」というTV番組を思い出した。整形を望む女性が、整形を受けさせるか否かを審査する人達に向かって、自分がその醜い容姿の為にいかに残酷な人生を歩んできたかを、再現フィルムを通して切々と訴える。見ているこちらにもその悔しさが伝わり、思わず涙する事もある。

そして、手術を終え、洗練された洋服を着こなし、プロの手でメイクを施され、ヘアスタイルを変えて再度登場する彼女たちは、その美しさもさることながら、一様に自信に満ちて輝いて見える。爽やかな笑顔を向ける彼女たちはもう別人だ。

その変身ぶりに驚き、何故かこちらまで幸せな気分になる。美とは心までも変えてしまう力があるのだと、改めて感じさせられるのだ。

和子の心も整形を繰り返すうちに、次第に変化していく。この辺りの複雑な精神状態の描き方は特に上手い。

終章に向かうにつれ、私はこの物語に遠い昔出会ったような気がしてきた。それが何なのか思い出すまでもどかしい気持ちだったが、読み終えてから漸く思いだすことが出来た。それは、アンデルセンの『人魚姫』だ。足を手に入れる代わりに声を失い、一歩歩くごとに襲う壮絶な痛みに耐えながら、恋しい王子の元へ行く人魚姫。だが、自分の思いを伝える事が出来ない彼女は、王子と添い遂げる事なく水の泡になってしまうという悲恋物語

こういう悲しい話も童話として存在するのなら、この『モンスター』という小説は、大人のメルヘンと言っていいかもしれない。

整形に関しての詳細な描写はとても興味深かったし、ぐいぐいと読者の心を引っ張りながら、人が本当に幸せになる方法は何か、と問いかけている。

百田尚樹氏は本屋大賞を受賞されただけあって、鋭い観察眼と洞察力を兼ね備えた力量のある作家だという思いを強くした。