タテハ通信

好きな物があればあるほど人生は楽しい。そんな私の日常を綴っています。

遠くて近い狂気への道

数年前から恩田陸を読むようになりました。恩田氏のホラーは初めて読みますが、パラドックス的なタイトルに惹かれてこの本を手に取ったのは、正解でした。

舞台は丘の上に建つ家。日当たりも見晴らしも抜群のこの家で、時を隔てて何故かいくつもの凄惨な事件が起き、多数の死者が出るのである。

普通はそこで探偵役が現れ、原因を究明、なるほどそうだったのかと納得するのだが、この物語は違う。はっきりとした殺人の理由はぼかされている。ただ、誰の中にでも起こりうる感情の爆発、あるいは偶然のもたらす不幸な事件として処理される。

そして現れる幽霊たち。彼らは死者が出るたびにこの呪われた家の中で増え、新しい住民を注視している。この状況は、薄気味悪さを通り越してどこか滑稽だ。

そして自分たちを受け入れてくれる者に対しては大人しく、邪悪な者に対しては懲らしめようという意思を見せる。そのあたりは爽快ですらある。

物語の終わり近くに「幽霊は思い出に似ている」という文章に出会う。「思い出。なんとも長閑な顔をしている、なんとも恐ろしい言葉。…中略…『思い出』を解体していくと幻想の過去が別の顔を見せ、見知らぬ過去が現在を圧倒する」哲学的な一節だが、その明快な定義にほっとする自分を見つける。

皆様、幽霊に出遭われた時にはくれぐれも「ギャッ!」と叫んで物を投げつけたりはなさいませんように。